中国情報最前線 1 /ゼロイン・コラム

巨龍の髯は揺れたか
急成長の歪みにあえぐ中国はどのように変貌するのか?
その兆候を気鋭のチャイナ・ウオッチャーがキャッチ
希薄化する日本の「存在感」

富坂 聰 on zero-in

 日本の存在感の低下が著しい。
 かねてから感じていたこの思いを強くしたのは、田茂神敏雄前航空幕僚長が政府見解と異なる歴史認識を論文にして投稿していた問題、いわゆる「田茂神論文」問題が発覚したときの中国側の反応に接したときだった。
 中国政府は形式的な反応を示したもののその後はほぼこれを黙殺したのだ。不思議だったのは民間からも目立った抗議活動がなく、さらにメディアの反応も冷めていたことだ。
 日本が歴史認識で中国を刺激すれば、たとえ政府が抑えようとしても民間で抗議行動が起き、メディアもこれを大々的に報じるのがパターンであった。というのもこの問題に関しては「愛国無罪」(国を愛するあまりの行動なので党や政府の方針から逸脱しても罪はないとの考え方)が通用したからだ。
 だが、今回は不気味なほど静まり返っている。この理由を中国の外交関係者がこう解説する。
「一言でいえば、日本が何をしようがもうどうでもいいのです。中国には何の影響もないですからね。かつて日本のやることに一々右往左往したのがウソのようですよ」
 もちろん理由はこれだけではない。国内経済の混乱でそれどころではないことや日本への観光旅行者の増加で多少イメージが回復したこと。政府の対日関係の重視もある。
 だが、背後には中国で確実に広がりつつある日本軽視の問題がある。
「秋の人事異動の季節、外交部でも大きな異動が行なわれました。ここでの注目はアジア局における日本課出身者の処遇です。局長や副局長といった重要なポストがことごとく他の地域の人間に奪われてしまったのです。かつて唐家セン(注)が外交部長から国務委員まで出世したのに続き武大偉、王毅という日本大使経験者が次々と副部長に抜擢された流れは完全に途切れてしまったのです。外交部のなかでも日本語系の地位の低下は顕著です」(同前)
 こうした「日本を重視しなくなった中国」を象徴してか、08年中に開催が予定されていた日中ハイレベル経済対話も突然延期。理由は中国側の日程調整がつかなかったこととされているが、その裏では「(日本との話し合いが)優先順位が低い問題」(同前)という事情も働いたと思われる。
 11月には劉延東国務委員の訪日も中国側の都合で中止になっていることを考えれば、日本軽視は進行中と見るべきだろう。
 一方の日本は中国の強い影響下にあることをますます実感し始めている。11月上旬、総額4兆元(約57兆円)の経済対策を中国が打ち出したとたん、日本市場で値が暴落していた鉄や銅の値が一気に高まった。もちろんそれは中国での需要急増を見越してのことだ。
「中国の経済対策が出されると日本の建設機械や鉄鋼メーカーなどが『これで2、3年は救われた』と万歳したとの話も伝わってくるほど。1人1万円程度を配ってお茶を濁すどこかの政府などあてにしていません」(経済アナリスト)というのだ。
 国際社会で中国にまでスルーされる日本。このままでよいのだろうか。

(注)セン 王へんに旋。中国共産党幹部。



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