司法の深層 /ゼロイン・レポート
検察 vs 弁護士
暴走する検察
検察は、裁判員制度をいかに骨抜きにしたか
目森一喜 on zero-in
二〇〇八年七月十六日、宮崎地裁で、ある事件の裁判の判決が申し渡された。小さな事件である。しかし、事の経過を知る者は、これが日本の司法にとって重要な意味を持つ裁判である事がわかっていた。
事件そのものは振り込め詐欺である。七月十七日の毎日新聞地方版の記事には、被告が暴力団員であると書かれていた。
暴力団員絡みの振り込め詐欺という、どうしようもない事件が、司法の根幹に関わる大きな意味を持つきっかけは、毎日新聞の記事にも触れられているが、裁判の途中で、弁護人の山本至弁護士が逮捕されてしまった事だった。
「盗品等有償譲り受け:振り込め詐欺被告に有罪判決 /宮崎」
と題した毎日の記事には、
「振り込め詐欺事件に絡み、通帳を買い受けたなどとして盗品等有償譲り受け罪に問われた東京都中野区、暴力団組員、松若正人被告(26)の判決公判が16日、宮崎地裁であった。神谷厚毅裁判官は懲役2年6月、執行猶予4年、罰金20万円(求刑・懲役2年6月、罰金20万円)を言い渡した。
判決によると、松若被告は04年10月25日午後2時ごろ、東京都内で男性から銀行の通帳と、キャッシュカードを、詐取されたものであることを知りながら買い受けた疑い。
この事件を巡っては、同被告の弁護人の山本至被告(54)=公判中=が、別人を犯人にしようとして、虚偽の書面を同地裁に提出したとして、山本被告が証拠隠滅罪などで起訴されている。」
(毎日新聞 2008年7月17日 地方版)
とある。
山本弁護士逮捕の容疑は、証拠隠滅だった。山本弁護士が、依頼人とは別の人物が真犯人であるとして、提出した証拠が、ねつ造であるとして、逮捕されたわけだが、問題なのは、この逮捕の時期だ。まだ松若裁判をやっている時に逮捕されたのである。
裁判途中に弁護士が逮捕されるのは、当然ながら、あまり例がない。
オウム真理教裁判で、教祖の松本智津夫(麻原彰晃)の主任弁護人だった安田好弘弁護士が逮捕されたのが記憶に新しい程度である。
安田弁護士の場合、直接オウム裁判が逮捕の理由ではなかったが、山本弁護士の場合、裁判での弁護活動によって逮捕された。異例という以上に、異常な事態であった。
元の依頼人が逮捕されたのが平成十七年(二〇〇五)十一月十日だった。ちょうどその一年後の、平成十八年(二〇〇六)十一月十日、山本至弁護士が逮捕された。
裁判途中の逮捕である事と同時に、もうひとつ注目したいのは、山本弁護士逮捕の指揮をとったのが、松若事件裁判を担当していた検事だった事だ。
つまり、松若事件裁判で、山本弁護士と熾烈にやりあっていた検事が、無罪の証拠を出そうとした弁護士を逮捕してしまったのである。
弁護士と検事は、当然、法廷で対立する。真面目な弁護士であればあるほど、検察と激しく戦う。それは当然の話だ。
しかも、松若事件は無罪を主張して争っていたのである。刑の軽重をめぐる交渉ではないのであるから、対立は全面的なものとなっていた。
その果てに、対立する立場の一方がもう一方を逮捕してしまった。しかも、その一方とは、検察、つまり、国家権力である。
山本至弁護士逮捕は、弁護士にとってみれば、無罪を主張し、真面目に弁護活動を展開したら、国家の強権によって逮捕されたという事態である。
これでは弁護活動が成り立たなくなると、多くの弁護士が山本至支援に立ち上がったのもあたりまえの話だった。
十二月二十六日、山本至弁護団を支援する会が結成される。(これには、二〇〇七年十月十一日時点で四百人を超える弁護士が参加する事となる)。
こうして、小さな振り込め詐欺事件は、弁護権をかけた、弁護士と検察の全面対決に発展する次第となったのである。
二〇〇六年末、山本至氏が保釈される事はなく、弁護士は塀の向こう側で越年する事となった。
この後、この事件は、さらに、裁判員制度という、司法制度改革の根幹に関わる大きな問題をはらんで行く。
順を追って、報告して行きたい。



