軍事・防衛の基礎知識 8 /ゼロイン・コラム

「射程距離」は正しいか?

高井三郎 on zero-in



 新聞、テレビ、軍事雑誌などの御用達評論家は、火器の性能に触れる際に、例えば、『120ミリ戦車砲の「射程距離」は約2000メートル』、あるいは『迫撃砲弾の「飛距離」は約3000メートル』と説明して非常識を露呈する。 
 ちなみに、筆者の友人で国防と軍事に理解のある高校教師が、担任学級の生徒達に「射程距離、射距離、射程のどれが正しいか?」と尋ねたところ、にわかに教室内が論議で騒然となった。その結果、テレビ報道などからの知識を根拠にする「射程距離」が正しいという主張が大勢を占めたと言う事である。その後、友人の教師は、メデイアが国民に及ぼす影響を深刻に認識し、国防意識を昂揚するのであれば、普段から正しい軍事知識の普及に努める必要性を痛感したと述懐している。
 結論を端的に述べると、「射程距離」「飛距離」は、マスコミの不用意な造語に他ならず、「射距離」及び「射程」が正しい。本来、「射程」の中の「程」は、距離の意味であり、したがって、敢えて「射程」に距離を付加するのは、無駄な表現である。
 明治建軍期に欧米の射撃学が導入されるに及んで、陸軍は、フランス語の“portee"及びドイツ語の“reichweite" 、海軍は、英語の“range"を「射距離」及び「射程」と和訳した。これらの旧軍の重要な射撃用語は、自衛隊に受け継がれており、筆者は、新隊員入隊の頃に学ぶ事ができた。
 参考までに、現代の西側の軍事用語から“range"の定義を確かめて見よう。
★英軍事用語辞典・6千語の定義:R Bowyer,Dictionary of Military Terms 3rd ed (London,UK, Bloomsbury 2004)

 ①兵器(火器)が射撃可能な最大距離
 ②兵器(火器)と目標との間の距離

(筆者注:上記各定義の距離は、直距離(直線距離)を表す。)

 日本では旧軍以来、「射距離」は射撃学及び射撃指揮の用語であり、「射程」は火器の性能を表す尺度である。銃弾、砲弾、ロケット弾、弾道ミサイル(以下、弾丸)は、原点(発射位置)から空中を飛翔して放物線状の弾道を描き、遠方の弾着点又は落点に落達(着弾)するが、その原点と弾着点又は落点を結ぶ直距離を「射距離」と言う。  この機会に読者各位の兵器に寄せる造詣を深めるため、射撃学のうち、弾道学の基本的事項を説明する。弾丸の飛翔経路が弾道(ballistics) であり、これを厳密に定義すれば、飛翔中の弾丸の重心が描く軌跡である。
 弾道は、原点、昇弧、最高点、昇弧及び落点から成る。なお、原点と同じ標高(水平面)にある点を落点であり、原点と落点を結ぶ直線を弾道基線である。一方、弾着点の標高は、地形条件により、左右されるので、原点より高くなり、あるいは低くなる。ただし、水平面に位置する弾着点は落点に、また射距離は弾道基線に一致する。
 目標となる弾着点に射弾を正確に導くために、射距離、射角等の射撃諸元を算定し、火器に付与しなければならない。付図、弾道側視図を参照
 指揮官は、射撃指揮では、例えば、『目標、正面の敵戦車、「射距離2000」、射て!』と号令する。
 一方、「射程」は、火器の性能、特に弾丸の飛翔距離と目標に及ぼす効果を表す代表的な尺度である。それには、「最大射程」、「最小射程」、「(最大)有効射程」、「交戦射程」、「運用射程」などが挙げられる。■


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